国別AIの法規制|日本・アメリカ・ヨーロッパ・中国

国別AIの法規制 How AI Will Change the World
国別AIの法規制|日本・アメリカ・ヨーロッパ・中国

はじめに
日本、アメリカ、ヨーロッパ、中国のそれぞれがAIに関する法規制が現時点でどうなっているかを解説します。

日本のAIに対する法律

日本にはAIに特化した法律はなく、個人情報保護や著作権、労働法など、AIに関連する分野を規制する法律が含まれています。

AIに対する著作権法

AIが作成したイラストに著作権はあるのか?

日本の著作権法では、著作物は「思想または感情の創作的な表現」と定義されて、AIにも思想や感情があるという扱いはされていないため「著作物ではない=著作権は発生しない」。AIが作成したイラストには著作権が存在しないため、誰でも利用可能です。

AIの機械学習に関する著作権問題

AI機械学習の目的で、画像(著作物)を集めたり加工したり利用したりすることや、学習用データを他の人に提供(売ったり譲ったり)することは、著作権法の第30条の4第2号で許可されています。

第五款 著作権の制限
(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000048

ただし、著作権者の利益が不当に損なわれる場合や、関係者同士で著作権法とは違う合意をしている場合、著作物の利用が許可されないケースも存在します。

AIに対する個人情報保護法

日本の個人情報保護法(PIPA)は、個人情報の取り扱いに関する法律であり、AIに関連するデータの利用や管理にも適用されます。この法律は、個人情報を適切に保護し、不正な利用や漏洩を防止することを目的としています。AI技術の発展に伴い、個人情報が大量に収集・分析されるようになり、個人情報保護法の重要性が増しています。

個人情報保護法は、以下のような原則や規制を設けています。

  1. 個人情報の取得にあたっては、適正な手段で行わなければならない。
  2. 個人情報の利用は、取得時に明示した目的の範囲内で行われるべきである。
  3. 個人情報は、目的外の利用や第三者への提供を行わない限り、適切な管理が求められる。
  4. 個人情報の正確性を確保し、セキュリティ対策を講じる責任がある。
  5. 個人情報の開示、訂正、利用停止等の要求に対応する必要がある。

AI技術が個人情報を扱う際には、これらの規制に従って適切な取り扱いが求められます。例えば、AIによる顔認証システムや個人情報を含むテキストデータの解析などの場合、個人情報保護法が適用されることになります。

AIに対する労働法

AIに対する労働法は、AI技術の導入や普及が労働環境に与える影響に関連した法律や規制のことを指します。AIは従来の労働形態や業務内容に変革をもたらしており、労働法にも影響を与える可能性があります。ただし、労働法はAIに特化したものではなく、従業員や雇用主がAI技術を利用する際に遵守すべき法律や規制が含まれます。

AIによる労働環境の変化に対処するために、労働法では以下のような点が検討されています。

  1. 雇用の安定: AI技術によって仕事が自動化され、従業員が失業する恐れがあるため、雇用の安定に関する規制や支援策が求められることがあります。
  2. 労働時間: AIが労働時間の短縮や柔軟な働き方を促進する一方で、労働時間の管理や過労防止に関する規制が検討されることがあります。
  3. スキルの再編成: AI技術の導入により、新しいスキルや知識が求められることがあります。労働法では、労働者の教育や再訓練に関する支援策が検討されることがあります。
  4. 労働者のプライバシー: AI技術を利用した労働者の監視や評価が増えることから、労働者のプライバシーや人権に関する規制が検討されることがあります。

労働法に関しては国や地域によって異なりますし、AI技術の進歩に伴って変化していく可能性があります。


アメリカのAIに対する法律

アメリカは、EUほど広範なAI規制を作る予定はないが、現行の分野別の規制をAIに適用するように連邦機関が取り組んでいる。アメリカは、AIを、ハードローとソフトローをミックスして統制する考え。アメリカの規制当局は、AIへの現行法の適用に非常に着目している。
ハードローとは,法的拘束力がある,つまり最終的に裁判所で履行が義務付 けられる社会的規範であり,ソフトローとは法的な拘束力がない社会的規範。

AI生成コンテンツの著作権に関する方針

米国著作権局は、AIが生成した素材自体は著作権保護の対象外とし、人間が手を加えた場合に限り著作権保護の対象とする方針を示しました。ただし、この方針は暫定的なものであり、個々のケースに合わせて判断する必要があるとしています。米国著作権局は今後も法改正や技術発展を監視し、追加のガイダンスを出す可能性があるとしています。

AI開発の5原則を示す「AI権利章典」とは?

AIが急速に米国社会に普及、非常に大きな利益をもたらし、社会のあらゆる部分を再定義しすべての人の生活をより良くする可能性を秘める一方で、米国国民の権利を脅かすような方法で利用されている。 これを今日の民主主義にもたらされる大きな課題とし、米国科学技術政策局は、2021年10月から新たな「権利章典」の開発に着手、AIの時代に米 国国民を保護するためのAIを含む自動化システムの設計、使用、導入の指針となるべき5つ の原則を特定し「Blueprint for an AI Bill of Rights(AI権利章典の青写真)」を2022年10月に公表しました。

5つの原則
①安全で効果的なシステム
 ユーザーは安全でないシステムもしくは効果のないシステムから保護されるべきである。 
② アルゴリズム由来の差別からの保護 
 ユーザーはアルゴリズム由来の差別を受けるべきではない。システムは公平に機会を提供する方法で利用および設計されるべきである。
③ データのプライバシー
 ユーザーは、組込みの保護機能を通じて不正なデータから保護されるべきであり、自身に関するデータがどのように使用されるかを知 る権限を持つべきである。
④ ユーザーへの通知と説明
 ユーザーは自動化システムが使用されていることを知り、それが自身に影響を与える結果にどのようにして、またなぜ寄与するのかを 理解するべきである。
⑤ 人による代替手段、配慮、フォールバック
 適切な場合、ユーザーは必要に応じて自動化システムの使用をオプトアウトすることができ、問題が生じたときに、その問題を迅速に 検討して解決できる担当者に連絡ができる手段を持つべきである。

但しこれは、AIを含む「自動化システム」を構築しガバナンスする際に、米国国民の人権を保護しつつ民主主義的価値を推進するための政策及び実践方法の開発のサポートを目的とした白書であり、既存の法令や規則を修正したりするものではなく、法的拘束力はない。


ヨーロッパのAIに対する法律

EUのAI規制と生成AI

EUのAI規制は、特に「生成AI」に注目して、その透明性や説明責任を強化しようとするものです。EUは、AI法により、企業にAIモデルの内部構造を明らかにすることを義務付けることを計画しています。これにより、AIモデルによって生成された製品に関する情報を共有することができ、第三者企業に役立つ可能性もありますが、有害なAI生成コンテンツの拡散にはより厳格なルールが必要とされることもあります。企業は、透明性と説明責任を果たすことが求められ、AIモデルの構築方法や訓練データなどの情報を開示する必要があります。

生成AIは、特にテキストや画像生成において注目を集めており、今後ますます活躍が期待されています。しかし、このようなAIモデルが生成するコンテンツには、偏った情報や有害なコンテンツが含まれる可能性があります。EUのAI規制は、このような問題に対処するために、企業に対してより責任を負わせようとしています。これは、より透明性やプライバシーの尊重を重視したAI開発の新しい時代をもたらす可能性があります。

EU AI Actとは?

ヨーロッパで2024年に完全施行される予定のAI規則案(EU AI Act)について、2年以上にわたり進められているEUの人工知能に関する法律であり、ヨーロッパにおけるAIの使用を規制する画期的なものとされています。AIツールを低リスクから受け入れができないものまで、危険度に応じて分類することが提案されています。それに応じて、政府や企業は異なる義務を負うことになります。この法律は、コンテンツ、予測、推薦、または環境に影響を与える決定などのアウトプットを生成するシステムをカバーするもので、企業だけでなく、公共セクターや法執行機関においてもAIを使用することが対象となります。人間との相互作用がある、監視目的で使用される、または「ディープフェイク」コンテンツを生成できるAIシステムを使用する場合は、透明性に関する厳しい義務が課せられます。法執行、移民、インフラ、製品の安全性、司法行政など、AIの使用が厳密に制限される「高リスク」のカテゴリがいくつかあります。GPAIS(汎用AIシステム)というカテゴリがあり、ChatGPTなどのように複数のアプリケーションに使用されるAIツールを指します。この分野に関しては、法律家たちが現在、すべてのGPAISが高リスクと指定されるかどうか、およびAIシステムメーカーがどのような義務を負うことになるのかを議論しています。法律に違反した場合、AI Actは、グローバル利益の6%または最大30億ユーロの罰金が科せられるとされています。この法律がいつ施行されるかについては確定的な締め切りはありませんが、EU議員らが合意に達した後、欧州議会、欧州連合理事会、欧州委員会の代表者による三者協議が行われる予定で、規制に準拠するための猶予期間が約2年間設けられます。


中国のAIに対する法律

画像生成AIの画像に「AI生成マークの表示」を義務化

中国は、AIに関する法律の制定に関して積極的であり、AIの振興と規制を両面から進めています。2023年1月10日、コンテンツ生成AIに関する新規則を発効しています。

新規則の概要は以下の通り。

・コンテンツ生成AIの提供者は、ユーザーの身元情報を確認し、コンテンツ管理を強化する必要がある。
・人間の顔やリアルなシーンを生成する際は、AIによって生成されたことを示すマークを目立つように表示する必要がある。
・AI生成コンテンツであることを示すマークを改ざんしてはならない。
・コンテンツ生成AIは法律および行政法規によって禁止されている活動に使用されてはならない。
・コンテンツ生成AIの提供者は、生成されたコンテンツが情報セキュリティ上のリスクを含んでいる場合にユーザーのアカウントを停止しなければならない
・規則は中国国内でコンテンツを流布するコンテンツ生成AIに適用される。

中国での対話型AIに対する新しい規制

中国政府は、2023年4月11日に対話型AI(人工知能)に対する新しい規制を施行することを明らかにしました。この新しい規制には、当局による事前審査の義務化などが含まれます。また、文章や画像、動画などを生成する生成AIに対しても規制が設けられ、国家転覆や社会主義制度を覆す内容を禁止し、AIの基礎となるアルゴリズムを提出することを求めます。法律に違反した場合は処罰することも明記されています。この規制は、習近平政権にとって不都合な内容の表示を禁じる狙いがあるとみられています。


以上のように、日本、アメリカ、ヨーロッパ、中国は、AIに関する法規制に対して、それぞれ独自のアプローチを進めています。しかし、どの国も、個人情報保護や差別の防止など、AIの活用に伴う倫理的・社会的な問題に焦点を当てていることが共通しています。今後も、各国がAIに関する法規制を整備し、AIの健全な発展に向けた取り組みを進めることが重要になるでしょう。

ただし、法律や規制は時間とともに変化することがあるため、最新の情報や専門家の意見に基づいて判断してください。

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